「ひとしずく」ーーひと昔編
起きてほしくないことが起ってしまいました。朝、病院に行こうと、車のキーを入れてエンジンスタートさせようとしたら、何と、あのバッテリー切れの、か弱いスターターの音・・・。家では捻挫した娘の愛と定期診察を受ける母親が、病院に行く準備をして待っています。
田舎の診療所では、常住のお医者さんがおらず、週一回やってくる巡回医師を頼りにしています。今日がその日で、この二人を連れて、隣町の診療所に行かねばなりません。車がなければ、この雪道を駅まで連れて行くのも無理です。バスは、一日に一本しかありません。
母が「油屋さんに、今日、灯油をもってきてくれるようにお願いしたから、来た時、助けてもらったらいいかもしれない」と言ったので、早速、油屋さんに電話をしてみると、親切な事務の人が対応してくれました。「今、配達人がどこを廻っているかわからず、連絡もいつとれるかわからないけど、連絡がとれたら、バッテリーをつなげるコードを持っているかどうか確認して、コードを持っていなかったら、取りに戻らせましょう」と言ってくれたのでした。
私は、そこまでしてもらっていいのかな?と思いましたが、一応、お礼を言って電話を切りました。しかし、灯油の配達は何時に来るかわからなかったので、近所の人が、近くに整備工場があるからそこに聞いてみたらいいということで、そこに電話してみました。すると、JAFに加入しているかどうか尋ねられて、加入していないかもしれないと答えると「うちは高いんですよ。出張してバッテリーチャージするだけで、2万円ですから。もちろん、すぐに行けますけど・・・」整備工場の人は、値段が高くて申し訳なさそうで、こんなことに大金を払うのはもったいないので、他の方法を考えたらいいといった答えでした。
私もその金額を聞いて断念し、ポータブルの発電機を使えば、自分でできるかもしれないと思い直しました。
そして再び外に出ました。ちょうどそこへ近所の八十歳くらいのおじいさんが来て私に「ちょっとついて来て」と言って先に歩いて行きました。ついて行くと、道ばたでタバコを吹かしながら、おばあさんと話している作業着姿の男性がいました。おじいさんは、その彼に事情を話し「何とかしてくれや」と頼んでくれたのでした。この男性は、私の旧友のところで使われている人でした。私の友人はいなかったのですが、彼はバッテリー・コードを私の友人の物置から探し出し、車を乗り寄せて、バッテリー同士をつなげてチャージしてくれました。車のエンジンはすぐにかかり、全てがあっけないほど簡単に終わったのでした。
油屋さんの事務所には「もうバッテリーは大丈夫だから」と連絡を入れていましたが、油屋さんが灯油を入れにやってきたのは、夕方近くでした。ついさっきやっと連絡がついたようでした。それでも車は大丈夫かと気遣ってくれていましたが、私は感謝して、「大丈夫でした」と答えました。
しかし、ここの人たちは、何と言う助け合いの精神の持ち主なんだろうと、私は感動してしまいました。
困っている人を身内のことのように心配し、それを見過ごさず何とかしようとしてくれる・・・商売をしているというのに、相手が高いお金を出すのを気の毒に思ってくれる・・・一銭の儲けにもならず、自分の仕事でもないのに、寒い中、犠牲を払って助けてくれる・・・。
再び寒い雪国で、親切な心に暖められた思いがしました。こういった豪雪地帯では、困まったことも頻繁にあるのだと思いますが、その分、他の人々との助け合いの機会を多く持ち、それが「困った人は必ず助ける」という習慣を生み出しているのだと思いました。
ハプニングがなければ、知り合えなかった人々、そして触れ合えなかったその人たちの親切、優しさ・・・。
私は、平穏無事な一日でなかったこと、主に感謝!
憐れみ深い人々は、幸いである、その人たちは憐れみを受ける。
心の清い人々は、幸いである、その人たちは神を見る。(マタイ五章七、八節)