12月1日 Aさんのこと クリスマスの奇跡 パート三 (ひとしずく一三九二)
図書館のロビーのテーブルに向かい合って坐った彼は、なかなか言いにくそうでしたが、ついに一言、こう言いました。「食べ物がないんだ」 と。
私は「あ、おなかを空かしていたんですか?それなら、ここにジャガイモがありますから、私のアパートで食べましょうか?」と言いました。 すると彼は驚いた顔で「え、いいんですか?」と言うので、「ああ、いいですよ。じゃ、一緒に行きましょう。」と一緒に席を立ったのでした。
彼は半信半疑だったのでしょう。何かきつねにつつまれたような顔をして、私が進む雪道をついてきました。
アパートで、茹でたジャガイモを食べながら、私は色々と彼に質問しました。そして分かったことは、だいたい次のようなことでした。
彼は刑務所から出て来たばかりで、駅の待ち合い室をねぐらとし、人を恐喝してはお金を巻き上げて食をつないでいたということです。
後で考えてみたら、私がケーキを駅にいたホームレスの人たちに持って行った時、きっと彼もそこにいたのではないかと思います。私は幾人に もケーキをあげて、その人たちの顔は全く覚えていません。しかし、彼が駅の待ち合い室に寝泊まりしていたとすれば、私がケーキを配っていた時、彼もそこにいて、ケーキを受け取っていたことでしょう。そして、もしかしたら彼は、私がケーキを気前良く人に与えているのを見て、 もっと何かもらうことができるかもしれないと思って、私が図書館に行く所を待ち伏せしていたのかもしれません。
彼は、何度か刑務所を出たり入ったりしていたようでした。そして、仕事を始めたいのだけれど、なかなか雇ってもらえないと言っていました。それで何ができるのかと尋ねたら、「大型車の運転ができる」と答えたので、それなら、きっと仕事は見つかるだろうと思いましたが、さらに尋ねると、運転はできるけれど、無免許なのだとわかりました。
また字を書くのもままならないということでした。彼はやっと自分の名前を書くことができるぐらいで、他の漢字はほとんど読めないというのです。
とにかく彼には何も無かったのです。私は「じゃ、仕事が見つかるまで、ここにいたらいいですよ」と言いました。
それから、私は彼と、その小さなアパートに一ヶ月半の間、一緒に生活することになったのです。
私は彼に毎日のように聖書の話を教えました。教会には一度、連れて行きましたが、彼はかしこまった場所は苦手で、もう二度と行こうとはしませんでした。刑務所の中で、牧師や神父、またお坊さんの話はたくさん聞いたというのです。それで、教会に行こうとしないAさんと、アパートで一緒に祈ったり、聖書の話をしたりしました。
ある時Aさんは、ホームレスの仲間を一人連れてきたこともあります。その人とも簡単な食事をし、聖書の話をしたりしました。
私は自分のための食べ物というのはあまりありませんでしたし、お金もほとんど持っていませんでした。わずかの食べ物とわずかのお金を二人で使うのですから、たちまち食べ物もお金も無くなってしまいました。
しかし、そんな時、主は全く思いもかけない方法で、私たちを養ってくださったのです。(続く)